SAPとは?ERPとの意味の違いや歴史について解説!
SAP(エスエーピー)とはERPシステムを提供するドイツの企業で、ERP市場などでは世界でトップ5に入る売上高を誇ります。
こちらの記事では、このようなERPの代名詞とも言えるSAPについてその歴史や現在多くの日本企業で問題となっていることなどを解説していきます。
目次
SAP(エスエーピー)とは
SAP SE社は、ドイツに本拠を置く世界的なソフトウェア企業です。1972年に設立され、企業向けのソフトウェア製品やサービスであるERPシステムを提供しています。
2014年7月に社名をSAP SEと変更していますが、一般的に「SAP」として親しまれています。
SAPは、「システム分析とプログラム開発」を意味するドイツ語”Systemanalyse und Programmentwicklung”の略称で、「サップ」と呼ばれることが多いですが、正しい読み方は「エスエーピー」とされています。
このように、SAPとはこのSAP SE社の社名を意味していることもありますが、同時にSAP社が開発したERPシステムを表すこともあります。
SAPのERPは、世界中の多くの大企業や政府機関で利用されており、ビジネスプロセスの自動化、統合、最適化を支援しています。
SAP社のITソリューション『ERP』とは?
ERPとは、「企業資源計画」を意味する英語の”Enterprise Resource Planning”の略称で、企業が経営上必要な情報を一元管理するためのシステムです。
ERPシステムは、企業の生産、販売、調達、在庫、会計、人事などの業務プロセスを統合的に管理することができ、情報の正確性や一貫性を高め、業務効率を向上させることができます。
ERPシステムの歴史を見ると、SAPが開発を行う以前の1960年代から主に製造業で使われていましたが、「ERP」という言葉が使われ出したのは1990年代です。
ERPシステムは、大規模な企業や多国籍企業の複雑な業務に応じて、機能やカスタマイズの程度を調整することができるというのがメリットとされていましたが、現在は2010年代に登場したクラウド型のERPシステムが主流となっており、中小企業でも導入しやすくなっています。
企業への導入実績
ヤマハ発動機(Yamaha Motor Corporation U.S.A.)
「ヤマハ発動機」の北米子会社は、外部人材の管理を効率的に行うために、「SAP Fieldglass Contingent Workforce Management」を採用しました。
以前は、外部人材の調達と管理を手作業でExcelやスプレッドシート、電子メールを使って行っており、これが煩雑で時間のかかるプロセスでした。
そこで、新しいERPシステムの導入を決定し、これにより外部人材の効率的な調達と管理、財務情報の精度向上、タッチレスの請求処理の促進などが実現しました。
また、非正規社員の管理も可視化でき効率をあげることに成功しました。
三菱ふそう
「三菱ふそう」は、日本の商用車業界で代表する企業で、顧客との関係を強化するために革新的なアイデアに積極的に取り組んでいます。
2017年に開発した「eCanter」は、量産電気小型トラックの先駆けとなるモデルであり、商用車部品およびアクセサリーを提供する新規のeコマースソリューションとして「SAP Commerce Cloud」を導入しました。
車両には多数の部品が組み込まれており、ウェブサイトでは購入可能な部品が数万点に上りますが、顧客に効率的なオムニチャネルを提供し、カスタマーエクスペリエンスの向上に取り組んでいます。
味の素グループ
「味の素グループ」は、データを活用して経営をより効率的に行うデータドリブン経営(積極的なデータ活用により、意思決定や行動を促進するアプローチ)に取り組んでいます。
この取り組みの一環として、SAPのデータ&アナリティクスソリューションを活用して、経営情報分析の基盤を整えています。
特に、ASEAN地域の主要拠点である「タイ味の素」社は、従来の「SAP ERP」から次世代ERP「SAP S/4HANA」への移行と同時に、「SAP Analytics Cloud」と「SAP Datasphere」を採用しました。
これにより、月次業績の見込みとレポーティング業務にかかる時間を20%削減することに成功しました。
また、データを効果的に可視化して分析できるようになり、スピーディなアクションを行えるようになりました。
Microsoft
「Microsoft」は成長に伴い、一貫性のあるグローバルコア人事システムの導入が必要となりました。
以前はオンプレミスの人事システムを使用していましたが、そのシステムは利用範囲が限られ、データ取得に時間がかかり、標準化されたプロセスが不足していました。
そこで、人事システムの統合を実現するために「SAP SuccessFactors Employee Central」を導入し、100カ国以上の22万人以上の従業員に対して一貫性のあるコア人事システムを提供しました。
さらに、「SAP Analytics Cloud」と「SAP Business Technology Platform」を導入することで、最適な人材を適切な場所に、最適なタイミングで大規模に採用できるようになりました。
読み方について注意・サップとは呼ばない理由
公式サイトやニュースリリースでは「エスエーピー」と表記されており、SAPの営業担当者やエンジニアも「エスエーピー」と呼んでいます。
ちなみに、どうして”サップ”と呼ばないのか?というと、サップは英語で「バカな人、哀れな人」といった意味で使われている事や、若者言葉(スラング)のサップが"What’s up? = 最近どう?"の省略形(SUP)として使われており、発音が似ていることから企業の呼称としてふさわしくないとされています。
SAP SE社の歴史
SAP社の歴史をERPシステムの開発という観点からまとめました。
SAPはすべてのビジネスプロセスを統合し、リアルタイムでデータ処理を可能にするソフトウェアを作成することを目的に、1972年に5人の元IBM社員によって設立されました。
- 1973年 最初の財務会計システムRFを立ち上げ
- 1981年 第2世代であるSAP R/2 リリース
- 1994年 SAP R/3をWindows NT用にリリース
- 1999年 eコマースソリューションとSAPのERPアプリケーションを最先端のWebテクノロ ジで組み合わせたmySAP.comを発表
- 2003年 名前をmySAP.comからmySAP Business Suiteに変更
- 2009年 SAP Business Suite 7発表
- 2011年 数秒でデータを分析できるインメモリデータベースSAP HANAの使用を開始
- 2013年 SAP Business Suite全体がSAP HANAに移行
- 2015年 SAP S/4HANAを備えた次世代のエンタープライズソフトウェアを発表
- 2018年 SAP S/4HANA発表
- 2021年 RISE with SAP発表
- 2022年 SAP Digital Manufacturing Cloud発表
SAPのソフトウェアとモジュールについて
SAPは一つのERPシステムですが、企業によって必要な機能を組み合わせて構築されています。SAP ERPではこの機能の部分を「モジュール」と呼んでいます。
このSAP ERPのモジュールは大きく分けて25ほどあり、その中でさらに細分化されています。ここでは最も人気の高いモジュールをご紹介します。
SAP ERP: 機能と特徴
SAPは一つのERPシステムですが、企業によって必要な機能を組み合わせて構築されています。
SAP ERPではこの機能の部分を「モジュール」と呼び、企業は特定のビジネスニーズや要件に合わせてカスタマイズできます。
このSAP ERPのモジュールは大きく分けて25ほどあり、その中でさらに細分化されています。ここでは最も人気の高いモジュールをご紹介します。
業務分野別にまとめられたSAP ERPのモジュール
SAP FI (財務会計)
SAP FIは、財務管理のモジュールです。勘定科目の設定や仕訳入力、決算、財務報告、資産会計、銀行口座管理などの機能を提供します。
これらの機能を統合的に管理することで、財務状況や業績を正確に把握し、経営判断に役立てることができます。
SAP CO(管理会計)
管理会計機能を提供するモジュールであるSAP COは、原価計算、予算管理、収益分析、プロジェクト管理、費用配分などの機能を提供します。
これらの機能により、製品やサービスのコストを正確に把握し、収益性の高い製品やサービスを生み出すための経営戦略を策定できます。
SAP SD(販売管理)
SAP SDは、販売管理機能モジュールです。受注管理、納品管理、請求管理、価格設定、顧客マスタ管理、製品マスタ管理などの機能により、顧客に対して的確な商品やサービスを提供し、収益性の高いビジネスを展開することができます。
SAP MM(在庫購買管理)
SAP MMは、購買管理モジュールです。発注管理、在庫管理、受入検査、物品マスタ管理、調達計画などの機能により、必要な資材を適切なタイミングで調達し、生産計画をスムーズに進めることができます。
SAP PP(生産管理)
SAP PPは、生産管理モジュールです。
生産計画、製造指図、製造実績、需要予測、工程管理、コスト計算などの機能により、製造業務全体をカバーします。生産効率を向上させ、製品の品質を保つことを支援します。
SAPの業界別ソリューション
SAPは多くの異なる業界に特化したソリューションを提供しており、企業が業界固有の課題を効果的に解決できるよう支援しています。
以下にいくつかの主要な業界とそのためのSAPソリューションの一例を挙げます。
製造業向け
SAP S/4HANA Manufacturing
製造業向けの統合ERPソリューションであり、リアルタイムのデータ分析とインサイトを提供し生産効率とプロセスの最適化を支援します。
SAP Integrated Business Planning
サプライチェーン管理と計画を最適化するためのツールであり、需要予測、在庫最適化、生産計画などの機能を提供します。
SAP Manufacturing Execution
製造業務の効率化と透明性を向上させるためのソリューションであり、リアルタイムの製造データと分析を提供します。
小売業向け
SAP S/4HANA Retail
小売業向けのERPソリューションで、在庫管理、販売予測、財務管理などの機能を提供しリアルタイムのデータ分析とインサイトを提供します。
SAP Customer Activity Repository
顧客の購買行動や嗜好を分析し、パーソナライズされたデータを提供するためのデータウェアハウスソリューションです。
SAP Commerce Cloud
企業がオムニチャネルコマース体験を提供するための包括的なソリューションです。
また、注文の受付から配送までのプロセスを効率的に管理しリアルタイムな注文ステータスを提供します。
この他、2022年には東京海上日動火災保険が「SAP for Insurance」を国内保険会社として初めて導入したり、三井住友フィナンシャルグループが人材管理を目的としてSAPを導入するといった動きを見せています。
また、以上の業種以外にも、金融・医療・地方自治体向けにカスタマイズされたSAPソリューションも提供されています。
SAPエンジニアに必要な資格や資質
中小企業から大企業までさまざまな会社がSAPを導入・運用しており、SAPエンジニアの需要も年々増加しています。
そこで、認定されている資格やエンジニアに向いている資質について解説します。
SAP認定資格
SAP Certified Application Associate
SAPの初級から中級レベルの認定資格であり、特定のSAPアプリケーションや、モジュールに関する基本的な知識と実務経験を持っている人が取れる資格です。
SAP Certified Technology Associate
SAPの技術認定資格であり、SAPのテクノロジーインフラストラクチャとデータベース管理、システム管理などの分野に関する専門知識と技術スキルを持っている人が取れる資格です。
SAP Certified Development Associate
SAPの開発環境とツールを使用してカスタム開発プロジェクトを実施できるプロフェッショナル認定。これには、独自のプログラミング言語に関する基本的な知識と、データモデリング、アプリケーションの開発と最適化などのスキルが含まれます。
資質について
SAPエンジニアになるためには、プログラミング言語(特にABAPやJava)の知識、データベース管理技術、そしてビジネスプロセスや業界に対する深い理解が必要です。
また、プロジェクト管理やコミュニケーションスキルも重要であり、複雑な課題を分析し効果的な解決策を提案できる解析的思考力が求められます。
さらに、SAPの技術とソリューションは絶えず進化しているため継続的な学習と自己向上の意欲も必要です。
SAP導入のメリットとデメリット
メリット
データ処理の効率向上とコスト削減による競争力の向上
一元管理機能を活用することで、データの連携や共有にかかる時間や人的コストが減少し、業務の効率が向上します。
さらに、業務データをリアルタイムで抽出し情報分析がスムーズに行えるようになります。
これにより、経営戦略の意思決定が円滑に進み企業の生産性が向上します。
内部統制の強化
作業履歴が可視化されるため、ミスや業務の停滞を迅速に発見できるようになります。
また、不正な動作が発生した場合も早期に検知できる可能性が高まります。
データの変更や入力作業はすべてユーザIDと関連付けられ、履歴として残ります。
これにより、不正なデータ入力や改ざんを検出しやすくなり、管理が効率的に行えるようになります。
デメリット
初期費用が高額で導入へのハードルが高い
SAPの導入にはライセンス料やサーバ費用、システム構築料などの初期費用がかかります。
特に中小企業にとっては導入へのハードルが高く感じられるかもしれません。
システムが複雑
SAPは多くの機能を提供し汎用性があるため、その分システム設定が複雑となり自社の業務プロセスに適合させる調整が必要となります。
これにはSAPの標準機能の理解と、業務を機能に適合させる意識が求められます。
また、SAPは独自のプログラミング言語「ABAP」を使用しているため、新たにモジュールなどをアドオン開発する際はABAPを扱える知識を持った人材が必要な場合があります。
SAPの2025年問題、2027年問題とは
このようにSAPは全世界で多くの企業が使用するERPシステムですが、これが企業にとって大きな問題を抱える原因となっています。
SAP2025年問題とは
SAP EhPとは、「SAP Enhancement Package」の略称で、SAP ERPのアップグレードやアップデートによる機能追加を提供するサービスです。
基幹システムSAP ECC 6.0で使用されているEhPが6以上でなければ、サポートを受けられるのが2025年末までとなってしまうのです。
そのため、期限内にEhP6へ移行するか、SAP S/4HANAへ移行するかの選択が迫られているのが2025年問題です。
SAP2027年問題とは
この2025年問題に対し、EhP6以上に移行したとしても発生するのが2027年問題です。EhP6以上でも2027年度末に保守サポート期限が切れてしまうからです。
追加料金を支払うと2030年末までサポート期間が延長される救済法もありますが、問題を先送りするだけになる可能性も否定できません。
SAPはこの問題の解決策として、新しいクラウドベースの製品であるSAP S/4HANAへの移行を推奨しており、多くの企業が移行プロジェクトを進めています。
ただし、SAP S/4HANAへの移行には多くの時間とコストが必要となることからも、長期的な計画を策定して対応しなければならないと言われています。
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ERPシステムの大手であるSAPですが、これを導入するにはコストも時間もかかる上、サポートの期限切れ等の問題があるため、中小企業ではなかなか導入に踏み切れないという声も聞かれます。
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この記事を書いた人
下川 貴一朗
証券会社、外資・内資系コンサルティングファーム、プライベート・エクイティ・ファンドを経て、2020年10月より取締役CFOとして参画。 マーケティング・営業活動強化のため新たにマーケティング部門を設立し、自ら責任者として精力的に活動している。