在庫回転率とは?計算式や具体例でわかりやすく解説 ~在庫管理のための完全ガイド
ビジネスにおいて在庫は単なるストックではなく、企業の利益やキャッシュフローに直結する重要な資産です。しかし「在庫が多すぎて管理コストがかかる」「欠品が発生してしまい販売機会を逃した」といった悩みを抱える企業は少なくありません。
そんな課題を解決するために欠かせない指標が『在庫回転率』です。
在庫回転率とは一定期間内に在庫がどれだけ入れ替わったかを示す数値で、在庫の動きを可視化して適正な在庫数を維持するための重要な判断材料となります。
本記事では在庫回転率の計算方法から、改善のための具体的な方法までを詳しく解説します。
在庫回転率とは?
在庫回転率とは、一定期間内にどれだけ在庫が入れ替わったのかを示す指標です。簡単にいうと「仕入れた商品がどれくらいのスピードで売れていくのか」を数値化したものです。
例えば、ある商品の在庫回転率が「5」だった場合、それは一定期間※にその商品が5回入れ替わったことを意味します。
※期間は必要に応じて、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月で計算します。
適正な在庫回転率を把握することが重要
在庫回転率は高ければ高いほど良いとは一概には言えません。回転率が高すぎると在庫切れを起こすリスクがあり、顧客のニーズに応えられない可能性があります。一方で回転率が低すぎると、売れ残りによる管理コストの増加や債権の滞留といった問題が発生している可能性があります。
そのため、業種や取り扱う商品の特性に応じた適正な在庫回転率を把握することが重要です。
在庫回転率を求める計算方法
計算方法には「在庫数」を用いる方法と、「金額」を用いる方法があります。
・在庫数を用いた方法
日常的な在庫管理や倉庫の運営に適しており、販売実績に基づいた計算で算出するため、より実用的です。
・金額を用いた方法
企業の経営分析や財務管理に適しており、在庫のコスト管理やキャッシュフローの改善に役立ちます。
以下、それぞれの計算方法について詳しく解説します。
『在庫数』を用いた計算式
在庫数を用いた計算方法は、在庫を日常的に管理している倉庫担当者や販売現場のスタッフにとって実感しやすい指標となります。
在庫回転率 = 期間内の総出庫数 ÷ 期間内の平均在庫数
この計算式を使うことで、在庫がどれくらいの頻度で動いているのかを具体的に数値で表すことができます。
また、計算式にある『平均在庫数』は期間の始まり(期首在庫)と終わり(期末在庫)の数から求めます。
平均在庫数 = (期首在庫数 + 期末在庫数) ÷ 2
以上、2つの式から在庫回転率を求めることができます。
例:家電量販店のノートパソコン
ある家電量販店では、1ヶ月間で60台のノートパソコンを販売しました。月初の在庫数は50台、月末の在庫数は40台でした。
①平均在庫数を求める
平均在庫数は、期首(この場合は月初)の在庫数と期末(この場合は月末)の在庫数の平均値を計算します。
平均在庫数 = (50台 + 40台) ÷ 2 = 45台
②在庫回転率を求める
在庫回転率は、期間内の総出庫数を平均在庫数で割ることで求められます。
在庫回転率 = 60台 ÷ 45台 = 1.33回
この結果から、このノートパソコンの在庫は1ヶ月間で1.33回入れ替わったことが分かります。
『金額』を用いた計算式
この方法では、売上原価をもとに在庫がどれくらいのペースで動いているのかを分析します。
在庫回転率 = 期間内の売上原価 ÷ 期間内の平均在庫金額(棚卸資産)
ここで重要なのは「売上」ではなく「売上原価」を使うことです。売上金額を使ってしまうと、利益率の違いによって実態とは異なる数値が出てしまうため、仕入れにかかったコストをベースに計算しましょう。
また、計算式にある『平均在庫金額』は期首・期末の在庫金額から求めます。
平均在庫金額 = (期首在庫金額 + 期末在庫金額) ÷ 2
以上、2つの式から在庫回転率を求めることができます。
例:アパレルショップのジャケット
あるアパレルショップでは、1年間で売上原価が500万円分のジャケットを販売しました。期首の在庫金額は200万円、期末の在庫金額は150万円でした。
①平均在庫金額を求める
金額ベースの在庫回転率を計算する際には、期首と期末の在庫金額の平均を求めます。
平均在庫金額 = (200万円 + 150万円) ÷ 2 = 175万円
②在庫回転率を求める
在庫回転率は、売上原価を平均在庫金額で割ることで求められます。
在庫回転率 = 500万円 ÷ 175万円 = 2.86回
この結果から、このアパレルショップのジャケットの在庫は1年間で2.86回入れ替わったことが分かります。
在庫回転率の数値:「入れ替わった」という意味について
先ほど例に挙げた『家電量販店のノートパソコン』を例に詳しく解説します。
「1.33回入れ替わった」というのは、1ヶ月間でノートパソコンの在庫が完全に入れ替わり、さらにもう少し売れたことを意味します。
具体的にイメージしてみましょう。
在庫が1回入れ替わるというのは、平均在庫数分の商品がすべて販売され、新しい在庫に入れ替わったことを指します。
1.33回という数字は、1回分の在庫(平均在庫数45台)がすべて売れ、さらに「45台 × 0.33 ≒15台」も追加で売れたということを示しています。
※つまり平均在庫数と同数販売すれば在庫回転率は「1」になります。
在庫回転率の数値を把握することで適切な発注や在庫管理を行えるのはもちろん、前月や前年度と比べることで在庫の流動性や実際の売上と回転率を比較することも可能です。
金額ベースと在庫数ベースの違いについて
金額を用いた在庫回転率の計算では、売上原価と棚卸資産の額を基に計算するため、商品の単位(枚数や個数)には直接関係しません。
これは、ジャケットごとに仕入れ値が異なる場合や、異なる価格帯の商品が混在している場合でも、在庫の動きを総合的に把握しやすくするためです。
・在庫数ベース
「ジャケットが○枚売れた」という実際の販売数量に基づいて計算 = 倉庫管理や発注判断に適している。
・金額ベース
「売上原価500万円分のジャケットが売れた」というコストベースの計算 = 企業全体の財務管理や経営判断に適している。金額ベースで計算することで全体の在庫がどれくらいのコストで動いているかが把握できるため、企業全体の資金繰りや投資の判断がしやすくなります。
在庫回転期間との違いについて
在庫管理をする上で、在庫回転率とともに重要な指標となるのが『在庫回転期間』です。2つには以下の違いがあります。
・在庫回転率
どれくらいの頻度で在庫が入れ替わっているかを示す指標
・在庫回転期間
在庫がどのくらいの期間で売れるのかを示す指標
例えば、在庫回転率が12の場合「一定期間において12回在庫が入れ替わっている」という事はわかりますが、具体的に何日ごとに在庫が入れ替わるのか?今ある在庫は何ヶ月分に相当するのか?を知りたい場合には『在庫回転期間』を算出する必要があります。
在庫回転期間の計算式
日数の場合:在庫回転期間 = 棚卸資産 ÷ (売上原価 ÷ 365)
月数の場合:在庫回転期間 = 棚卸資産 ÷ (売上原価 ÷ 12)
例えば、年間の売上原価が1,200万円で棚卸資産(=現在庫)が300万円だった場合、1ヶ月あたりの売上原価は100万円(1,200万円 ÷ 12)なので、在庫回転期間(月数)は300万円 ÷ 100万円 = 3ヶ月となります。
つまり、現在庫は3ヶ月分の売上原価に相当するということです。
例:食品メーカーの場合
ある食品メーカーでは、年間の売上原価が9,125万円で、棚卸資産が1,000万円だったとします。
①1日あたりの売上原価を求める
1日あたりの売上原価 = 9,125万円 ÷ 365日 = 25万円/日
②在庫回転期間を求める
在庫回転期間 = 1,000万円 ÷ 25万円 = 40日
現在の在庫が40日分の売上原価に相当するため「今のペースで売れるとしたら、在庫が売り切れるまで40日かかる」こと示しています。
賞味期限が短い商品であれば、40日分の現在庫が適正かどうかを判断して仕入れや在庫の調整を講じます。
在庫回転率を用いた方法
在庫回転期間は、以下の計算式でも求めることができます。
在庫回転期間 = 期間(日数) ÷ 在庫回転率
1年間の在庫回転率が10回だった場合、在庫回転期間は「365 ÷ 10 = 36.5日」となります。つまり、およそ36日ごとに在庫が入れ替わっていることがわかります。
在庫回転率を把握するメリット
メリット① 在庫の動きを可視化できる
「今、どの商品がどれくらい売れているのか」「どれくらいのペースで在庫が動いているのか」といった情報が分からないと、仕入れや発注の判断を誤るリスクが高まります。
在庫回転率を定期的に確認して数値化することで、どのタイミングで発注すべきか?どの商品を重点的に仕入れるべきか?といった意思決定がしやすくなります。
また長期間動いていない在庫を特定できるため、値下げなどの対応を行い、適正在庫に調整する施策も可能になります。
「なんとなく売れている」「最近あまり動いていない気がする」といった曖昧な感覚に頼るのではなく、在庫回転率という具体的な数値を活用することで在庫の流れを可視化します。
メリット② 顧客ニーズの把握
在庫回転率を確認することで回転率の高い商品と低い商品が明確になります。回転率が高い商品は顧客の関心が高く、需要があることを示しています。
この事から、人気商品の在庫を切らさないよう適切な発注ができるだけでなく、類似商品の仕入れを増やすことでさらなる売上の拡大を狙うこともできます。
一方で回転率が低い商品については、その原因を分析します。価格設定が適切でないのか、それとも市場のニーズが変化したのかを見極めることで、在庫の適正化や販売戦略の見直しが可能になります。
ただ商品を仕入れて販売するのではなく「何が求められているのか?」「どの商品が今、売れるタイミングなのか?」をデータに基づき判断できます。
メリット③ 過剰在庫などのコスト削減と最適化
在庫を適切に管理することはコスト削減にも直結します。在庫回転率を把握することで、無駄な在庫を抱えずに最適な量だけを確保できます。
また、在庫の最適化を進めることで倉庫のスペースも有効活用できます。不要な在庫を減らせば、保管コストだけでなくピッキングや管理の手間も軽減され、全体の業務効率が向上します。
さらに、在庫の管理が適正化されるとキャッシュフローの改善にもつながります。余分な在庫を抱えずに済むため、資金の回転がスムーズになり、経営の安定化につながります。
在庫数を適正に保つことは、単なる「モノの管理」ではなく、企業の利益を守るための戦略と言えます。
在庫回転率を向上させる方法
まずは適正な在庫回転率を設定する
自社の在庫回転率を算出した上で、業界の平均値と比べることが大切です。一般的に同じ業界の平均在庫回転率と大きくかけ離れている場合、何らかの問題があると推測されます。
業界平均の在庫回転率は、経済産業省のデータやコンサルティング企業のレポート、同業他社の決算書(売上原価や棚卸資産のデータ)などを参考にしましょう。
また、商品ごとに回転率をチェックすることも大切です。全体の回転率が適正でも一部の商品だけが売れ残っていたり、特定のアイテムが急激に回転率を上げていたりする場合があります。より細分化されたデータを用いることで在庫管理の精度が高まります。
発注サイクルの見直し
適正な在庫回転率が決まったら、次に見直すべきは発注のタイミングや数量の調整です。過剰な在庫を抱えないようにするためには発注サイクルを最適化して、適切な頻度で在庫を補充しましょう。
発注頻度が少なすぎると一度の仕入れ量が多くなり、在庫が余るリスクが高まります。逆に頻繁に発注しすぎると物流コストや手間が増えてしまいます。そのため、売上データを分析して需要に合わせた発注量を調整することが重要です。
また、柔軟に発注量を調整できる仕組みを仕入先と調整し無駄な在庫を減らして最適なタイミングで商品を補充できる環境を構築することも大切です。
値下げ・セールの活用
在庫回転率を向上させるには仕入れの調整だけでなく、販売促進の工夫も欠かせません。 回転率が低い商品は、長期間倉庫に滞留すると劣化や廃棄のリスクが高まるため、適切なタイミングで値下げやセールを行い販売を促進することが重要です。
一定期間売れ残った商品については、割引セールはもちろんセット販売などを実施することで早期の在庫削減が期待できます。また、ECサイトであれば期間限定クーポンを発行したり送料無料キャンペーンを組み合わせたりすることも有効です。
リードタイムの短縮
在庫回転率を高めるためには発注から納品までのリードタイムを短縮することも重要です。リードタイムが長いと発注してから実際に商品が手元に届くまでの間に需要が変動して「仕入れた時にはすでに売れにくくなっていた」という事態が発生するリスクが高まります。
また、リードタイムの短縮は顧客満足度を高める上でも非常に重要です。近年、Amazonや楽天市場などのECサイトでは「当日配送」「翌日配送」 のサービスが当たり前になりつつあり、顧客は注文した商品ができるだけ早く届くことを期待しています。配送スピードを改善することで競争力も高まり、売上向上につながります。
在庫管理を効率化するクラウドERP『キャムマックス』
ビジネスの成長に伴い、業務の複雑化やデータ管理の煩雑さに悩む企業は少なくありません。
販売管理、在庫管理、購買管理、会計管理など、さまざまな業務をスムーズに連携させながら、経営全体の効率を向上させることが求められます。
クラウドERP『キャムマックス』は企業の基幹業務を一元管理できるシステムで、販売・仕入・在庫・会計といった業務を統合できます。
一元管理を実現することで、業務の効率化と経営判断のスピード向上をサポートします。
在庫回転率や在庫回転期間もリアルタイムで分析できる
キャムマックスの在庫管理機能は、在庫回転率や在庫回転期間をリアルタイムで分析できる点が大きな強みです。
在庫の滞留期間(在庫年齢)を商品ごとに確認できるため、各倉庫にどの在庫がどれくらいの期間保存されているかを一覧で把握できます。
- 「在庫の流動性を可視化して、適正在庫を維持したい」
- 「データに基づいた仕入れや販売戦略を立てたい」
- 「リアルタイムで在庫を把握して、欠品や過剰在庫を防ぎたい」
という企業様におすすめのシステムです。
在庫管理機能や在庫年齢について詳しくは以下ページをご確認ください。
https://www.cammacs.jp/function/inventory-management/
https://support.cammacs.jp/camsta8.pdf
https://support.cammacs.jp/manual/stock/stock-age/
この記事を書いた人
下川 貴一朗
証券会社、外資・内資系コンサルティングファーム、プライベート・エクイティ・ファンドを経て、2020年10月より取締役CFOとして参画。 マーケティング・営業活動強化のため新たにマーケティング部門を設立し、自ら責任者として精力的に活動している。