製造原価とは?売上原価との違いや計算方法、コスト最適化のポイントまで徹底解説
製造業において原価を正しく把握することは利益を確保するために欠かせません。その中でも「製造原価」は適切なコスト管理を行う上で非常に重要です。しかし、現場では材料費の高騰や労務費の増加、設備の維持費などさまざまな要因によってコストは変動し続けています。適正な原価管理ができていないと、製品の価格設定が市場に適さず利益を圧迫したり無駄なコストが発生するリスクがあります。
本記事では「製造原価とは何か?」という基本概念から、計算方法や売上原価との違い、そして実際にコストを削減するための管理手法について詳しく解説します。
製造原価とは
製造原価とは、製品を製造する過程で発生する全ての費用を指します。主に「材料費」「労務費」「経費」の3つの要素で構成されており、これらを合計することで製造原価を算出できます。
※正確には製造間接費を含み、仕掛品の増減も考慮されます。詳しくは後ほど解説します。
例えば自動車製造の場合、ボディやエンジンに使用される金属の購入費用は「材料費」にあたります。それを組み立てる工員の給料は「労務費」、そして工場の電気代や機械の減価償却費などが「経費」に含まれます。
これらすべてを合計したものが最終的な『製造原価』となります。
製造原価の計算方法
※画像は製造原価報告書の一例(サンプル)
製造原価の計算は一定期間における「当期製品製造原価」を求めることから始まります。この計算では、前の期間から引き継がれた「期首仕掛品棚卸高」に、今期中に発生した全ての製造費用を加えます。そのあと「期末仕掛品棚卸高」を差し引くことで、最終的な製造原価を算出します。
当期製品製造原価 = 期首仕掛品棚卸高 + 当期総製造費用 - 期末仕掛品棚卸高
※仕掛品とは製造途中でまだ完成していない未完成品を指します。また、期首は会計期間の開始時点、期末は終了時点を指します。
売上原価との違い
売上原価は販売された製品にかかったコストを示します。つまり、売上原価には売れ残った製品や仕掛品の製造にかかった費用は含みません。
売上原価 = 期首棚卸高 + 当期製造原価 - 期末棚卸高
例えば、100個の製品を製造して70個が販売されたとします。この場合、100個の製品の製造にかかった費用は製造原価として計上されますが、売上原価には販売された70個分のコストしか含まれません。残りの30個分は在庫として資産に計上されるため、損益計算書には反映されません。
製造原価の構成要素
製造原価は「製造にかかった費用」として単にまとめられるものではなく、さまざまな要素によって成り立っています。
こうした要素を「費用の発生形態」と「製品との関係性」という2つの観点から分類します。
費用の発生形態による分類【材料費・労務費・経費】
まずは「費用がどのような形で発生しているか」という視点から分類します。
製品を作るためには材料を購入して、作業員がその材料を加工します。その上で、さまざまな経費がかかります。これらの費用を「材料費」「労務費」「経費」の3つに大きく分けます。
材料費(原材料、消耗品、燃料費など)
材料費とは製品の製造に必要なすべての材料にかかる費用を指します。自動車を製造する場合は、ボディに使われる鋼板やエンジンに使われる金属部品、タイヤに使われるゴムなどが材料費に含まれます。また、製造に必要な燃料や潤滑油、塗料などの消耗品も材料費に含まれます。
労務費(従業員の給与、賞与、福利厚生費など)
労務費は製品を作るために働く従業員に支払う費用を指します。給与や賞与はもちろん、福利厚生費用なども労務費に含まれます。
経費(減価償却費、外注費など)
材料費や労務費以外に発生する全ての製造関連費用を指します。機械の減価償却費や自社では対応できない精密加工を専門の業者に依頼した外注費などが計上されます。
製品との関係性による分類【直接費・間接費】
特定の製品の製造原価を求めるわけですが、工場全体の運営にかかる費用や、複数の製品にまたがって発生する材料や人員、また工場の賃料なども考慮しなくてはいけません。
この事から、製造原価の内訳を「直接費」と「間接費」に分類して計上します。
製造直接費
製造直接費とは、特定の製品を作るために明確に発生した材料費・労務費・経費を指します。直接費は「どの製品にどれだけかかったのか」を正確に把握できるため、原価計算が比較的分かりやすいです。
製造間接費
製造間接費とは、製品の製造に関わる費用のうち、特定の製品に直接結びつけることが難しいものを指します。
例えば、工場で使用する光熱費や賃貸料、製造全体の業務を管理する生産管理・品質管理担当者などの給与を全て個別の製品に振り分けることはできません。
そのため、売上高・人員数・工数・稼働時間などをもとに配賦基準を設け、間接費として計上します。
製造原価率の指標と改善方法
次に『製造原価率』について解説します。
製造原価率は、企業が生産した製品の原価が売上高に対してどのくらいの割合を占めているかを示す指標です。計算式は以下によって求められます。
製造原価率 (%) = 製造原価 ÷ 売上高 × 100 (%)
この数値が高いほど製造コストがかさんでおり、利益を確保しにくい状態になっていることを意味します。適切な製造原価率を維持することは経営の安定と競争力の向上につながります。
参考までに、経済産業省の調査では製造業の平均製造原価率は81.1%となっています。
2023年経済産業省企業活動基本調査速報(2022年度実績)
https://www.meti.go.jp/press/2023/01/20240130003/20240130003-1.pdf
製造原価率を下げるためには、無駄を省きながら生産効率を向上させることが求められます。ただし、単純にコストカットを進めると品質の低下や生産効率の悪化を招く可能性があるため、バランスを取りながら最適な方法を選ぶことが重要です。
クラウドERP『キャムマックス』で実現する製造原価率の最適化
中小企業向けクラウドERP『キャムマックス』は、生産管理と原価管理を統合して製造原価率の最適化を支援します。リアルタイムでコストや生産効率を把握できるのが特徴です。
- 構成品をマスタ登録して所要量計算や原価管理ができる
- 原材料の発注・仕入や入出庫もあわせて管理できる
在庫管理や納期管理も効率化され、過剰な発注やムダな在庫を減らすことができます。デジタル技術を活用した管理体制を整えることで、より効率的な生産が実現できます。
リアルタイムな原価計算
生産工程ごとに材料費・労務費・製造経費などのコストデータを集計して、リアルタイムに製造原価率を算出します。これにより、製造原価の増減をいち早く把握して無駄なコストを削減できます。
需要予測と生産計画の最適化
需要予測機能を活用して生産量を最適化することで、過剰在庫や欠品を防ぎます。余剰在庫の削減は倉庫管理コストの削減につながり、製造原価率を改善できます。
製造原価低減のための工程管理強化
生産工程の各段階でのコストを可視化してボトルネックの特定が行えます。最適な生産フローを構築することで不要なコストの発生を抑えます。
部門間のデータ連携によるコスト最適化
購買・生産・販売・会計データが一元管理されるため、材料の調達コストを適正化して価格変動にも迅速に対応できます。部門間を通じて速やかに代替材料の選定や仕入先の見直しを行い、コストの増加を最小限に抑えます。
『キャムマックス』の生産管理機能について詳しくは以下ページをご確認ください。
https://www.cammacs.jp/function/production-management/
製造原価報告書
製造業において製造原価の正確な把握は利益を確保するために欠かせません。
そのための重要な財務資料の一つが『製造原価報告書』です。上場企業では、財務諸表の一部として提出が義務付けられています。
作成するメリット
製造部門と営業部門の費用を明確に分離できる
製造原価報告書を作成することで、製造コストと販売・管理コストを明確に分離できます。通常、損益計算書では売上原価と販管費(販売費および一般管理費)が混在してしまい、どの部分でコストが発生しているのかが分かりにくくなります。製造原価報告書を作成することで製造にかかった費用だけを把握できるため、より正確なコスト管理が可能になります。
コスト変動を見極め、最適な経営判断ができる
原材料の価格変動や労務費の増減など、製造原価は常に変動します。製品ごとや四半期単位で作成・分析することで、こうしたコストの変動をいち早く把握して適切な対応を取ることができます。
また、データをもとに利益の低い製品の生産を見直したり、高利益率の製品に生産リソースを集中させたりすることで企業全体の収益性向上につながります。
製造原価を算出する際の注意点
仕掛品の正確な把握
製造途中の未完成品(仕掛品)の棚卸高を適切に考慮しなければ、製造原価が過大または過小に計上され利益計算に影響を与える可能性があります。
直接費と間接費の適切な分類
材料費や作業員の給与など、特定の製品に直接関係する費用(直接費)と、工場の光熱費や管理者の給与など、複数の製品にまたがる費用(間接費)を正しく分類しないと、コストの見誤りにつながります。
配賦基準の明確化
間接費は配賦により各製品に分配します。作業時間や機械の使用時間など、適切な配賦基準を設定しないと製品ごとの原価が正しく計算できません。
定期的な見直しとマスタデータの更新
材料費や人件費は市場環境によって変動するため、過去のデータだけに頼らず定期的に見直しを行い、最新のコスト情報を反映させる必要があります。
まとめ
製造業の企業にとって、製造原価の管理は単なるコスト削減のための手段ではなく、経営そのものを安定させるための重要な戦略の一つです。
正確な製造原価の把握ができなければ、適切な価格設定や利益の確保も困難になります。適切な分類と計算を理解した上で、製造原価報告書を活用しながら経営判断を最適化していくことで持続的な成長を実現できます。
この記事を書いた人
下川 貴一朗
証券会社、外資・内資系コンサルティングファーム、プライベート・エクイティ・ファンドを経て、2020年10月より取締役CFOとして参画。 マーケティング・営業活動強化のため新たにマーケティング部門を設立し、自ら責任者として精力的に活動している。