ロジスティクスとは?わかりやすく解説
ロジスティクスとは、モノやサービスを効率的に供給するための仕組みを指します。単なる輸送や配送のことではなく、調達、在庫管理、保管、流通加工、配送、そして最終的に消費者の手元に届くまでの一連の流れを最適化する取り組みです。
例えば、ECサイトで商品を購入したとき、それが翌日には自宅に届くとします。このスムーズな流れはロジスティクスがしっかり機能しているからこそ実現できます。
注文を受けた瞬間に、どの倉庫から発送するのが最も早くコストを抑えられるのかを判断して最適なルートで配送手配が行われます。
もしロジスティクスが適切に管理されていなければ、商品の到着が遅れるだけでなく、在庫不足で購入できないといった問題が発生します。
ロジスティクスの重要性が高まった背景には、EC市場の拡大やグローバル化が挙げられます。
消費者は迅速な配送や豊富な品揃えを求めるようになり、企業は競争力を維持するために、より高度なロジスティクスを構築する必要に迫られています。近年は、AIやIoTなどのデジタル技術を活用したロジスティクスの革新が進み、リアルタイムでの在庫管理や配送ルートの最適化が可能になっています。
ロジスティクスは、ただモノを動かすだけの仕組みではなく、企業の経営戦略そのものに深く関わる要素となります。
目次
ロジスティクスの目的とその仕組み
ロジスティクスの目的は”適切なモノを、適切な場所へ、適切なタイミングで、適切なコストで届けること”にあります。
この「適切」という言葉が示す通り、ロジスティクスでは単なる輸送の効率化だけでなく、適正在庫の維持や効率的な配送ルートを設計することで無駄をなくし、全体の供給網を最適化することを目的としています。
「調達・生産・配送・販売」という4つの工程から構成
ロジスティクスは、単なる輸送や在庫管理ではなく、調達から販売までの一連の流れを最適化する役割を担っています。
まず、原材料や部品を適切に調達して生産ラインへ供給します。その後、完成した商品を倉庫で管理して、需要に応じて適切なタイミングで配送することで最終的に消費者の手元に届くように調整します。
これらをロジスティクスによってスムーズに行うためには、部門間の連携が欠かせません。
生産管理部門が生産計画を立てる際には、販売部門の需要予測データを活用して、在庫管理部門はリアルタイムで生産状況を把握することで、供給の遅れや無駄を防ぎます。そして製品が生まれ、出荷(または販売)されます。
デジタル技術の活用がポイント
ロジスティクスの仕組みを支える重要な要素として、デジタル技術の活用が挙げられます。倉庫管理システム(WMS)や在庫管理システムを導入することで、在庫の状況をリアルタイムで把握して最適な補充や配送を行うことができます。
さらに、AIを活用した需要予測や、自動搬送ロボット(AGV)を活用した倉庫管理の効率化など、最新技術を取り入れることで精度の高いロジスティクスが実現できます。
このように、ロジスティクスは単なる輸送の仕組みではなく、企業の競争力を左右する重要な戦略の一環として機能します。消費者ニーズの多様化や、グローバルな供給網が広がる中で、いかに柔軟で最適化されたロジスティクスを構築できるかが重要です。
ロジスティクス(Logistics)の語源・意味
語源は軍事用語とされています。日本語では『兵站(へいたん)』といい、戦争において兵士のための武器や食料、医薬品などの物資補給、輸送活動、またそれらが集まる施設を指す言葉として用いられました。
戦略的に物資を運び、効率よく供給を行うことは軍の勝敗を左右するほど重要な任務でした。やがてこの考え方はビジネスの世界にも応用され、現代では企業が製品やサービスを円滑に届けるための仕組みとして、”ロジスティクス(Logistics)”という言葉が使われています。
物流との違い
『ロジスティクス』と『物流』は混同されることがよくありますが、物流は「モノの流れ」に焦点を当てており、輸送・配送・保管など物理的な動きに関わる業務を指します。一方、ロジスティクスは物流を含むより広範な概念です。
ロジスティクスではモノを運ぶだけでなく、需要予測や在庫管理、コスト削減のための戦略立案など、供給全体を最適化するためのマネジメントが求められます。
つまり、物流はロジスティクスの一部であり、より大きな視点から全体を管理するのがロジスティクスの役割と言えます。
サプライチェーンマネジメント(SCM)との違い
ロジスティクスとよく比較されるもう一つの概念に『サプライチェーンマネジメント』があります。SCMは、原材料の調達から生産、流通、販売、さらにはアフターサービスに至るまでのすべての工程を統合的に管理する考え方・経営手法です。
企業間を跨いだ戦略や合理化が求められ、生産者から加工業者、消費者までを統合的に繋ぎ、全体の最適化を実現することがSCMの大きな特徴です。
以下ではハンバーガーチェーンを例に、その違いを解説します。
具体例:ハンバーガーチェーンの場合
・サプライチェーンマネジメントの役割
牛肉、パン、野菜などの食材をどの生産者(サプライヤー)から調達するかを決め、品質や価格のバランスを考えながら最適なサプライチェーンを構築します。また、各店舗の販売データを分析して、どの地域でどのメニューが人気なのかを把握しながら食材の供給計画を調整します。
・ロジスティクスの役割
SCMで立てられた調達計画をもとに、ロジスティクスでは新鮮な状態で食材を工場に輸送して、そこで加工した後、各店舗に適切なタイミングで配送する仕組みを構築します。もちろん店舗での在庫管理もロジスティクスの一部です。過剰な在庫を持つと廃棄ロスが発生しますし、不足すると販売機会を逃すため最適な量を供給することが求められます。
2つの役割の違い
”企業内での物流管理がロジスティクス”、”企業間の繋がりまで含めた広い枠組みがサプライチェーン”という棲み分けが一般的ですが、現実にはロジスティクスの考え方が企業の枠を超えて活かされるケースも多々あります。よって、サプライチェーンの中でロジスティクスが大きな役割を担っていることは間違いありません。
ロジスティクスを構成する要素
輸送・配送のように目に見えやすいものから、保管や荷役のように裏方として機能する工程もあり、それぞれがスムーズに連携することで、最適なロジスティクスが成り立ちます。ここでは、それぞれの要素がどのような役割や意義を持っているのかを解説します。
輸送・配送
ロジスティクスの中核を担うのが「輸送・配送」です。商品や原材料が、生産地から倉庫へ、倉庫から販売拠点へ、そして最終的には消費者のもとへと届くまでの流れを支える重要な要素です。
輸送には、大きく分けて陸・海・空の三つの手段があります。また、配送ではラストワンマイル(消費者の手元に届く最終区間の配送)が重要視されるようになり、海外ではドローンや自動運転車の活用も進められています。
配送においては、スピードとコストのバランスが課題になります。翌日配送や即日配送が当たり前になりつつある中で、企業は適切なルート設計や配送拠点の配置を工夫しながら迅速かつ低コストでの配送を実現しなければなりません。AIを活用したルート最適化や、シェアリング配送といった新しい仕組みが取り入れられ進化を続けています。
保管
ロジスティクスにおいて「保管」は、単に商品を倉庫に置いておくことではありません。市場の需要に応じた適切な在庫管理を行い、供給がスムーズに進むよう調整する重要な役割を果たします。
保管には、大きく二つの考え方があります。一つは「集中型」で、一つの大規模な倉庫に在庫を集約し効率的に管理する方法です。もう一つは「分散型」で、需要の高いエリアごとに小規模な倉庫を配置して配送スピードを高める方法です。企業のビジネスモデルや商品の特性によって、最適な保管戦略が選ばれます。
近年では、倉庫内の管理もデジタル化が進んでいます。非接触で感知できるRFIDタグを利用したリアルタイム在庫管理や、ピッキングロボットの導入が挙げられます。こうした技術革新によりヒューマンエラーの削減や省人化も進んでいます。
荷役
倉庫や物流拠点において、商品の積み下ろしや移動、仕分けを行う作業を「荷役」といいます。トラックやコンテナから荷物を降ろし、保管場所へ運び、出荷時には再び積み込むという一連の流れの中で荷役は欠かせない工程です。
荷役作業は一見単純なように思えますが、物流の効率を大きく左右します。手作業で行うと時間がかかるだけでなく事故のリスクも上がります。そのため、フォークリフトやコンベアシステム、自動仕分け機などが導入されています。
また、倉庫のレイアウト設計も重要なポイントです。荷役がスムーズに進むよう入出庫の動線を最適化して作業員の負担を軽減する工夫が求められます。最近では無人搬送車(AGV)なども導入され、荷役の効率化が進んでいます。
包装・梱包
商品を輸送・保管する際、破損や汚損を防ぐために必要なのが「包装・梱包」です。単なる保護だけでなく、商品の特性や配送手段に応じて最適な方法を選ぶことが求められます。
包装には、商品の外観を美しく見せる役割もあります。特に小売業では、消費者が手に取る際の印象を左右するため、デザインや素材選びが重要になります。一方、梱包は輸送時の安全性を確保する目的もあり、ダンボールや緩衝材の活用・進化は一つのロジスティクスと言えます。
また、近年では環境問題を考慮したエコ包装の導入も進んでいます。過剰包装を避けるだけでなく、生分解性素材を使用したパッケージやリユース可能な梱包材の活用が求められています。企業にとっては長期的にはコスト削減にもつながるため、サステナブルな包装技術の開発が活発になっています。
流通加工
「流通加工」は、物流の過程で商品に付加価値を加える作業のことを指します。具体的には商品のラベル貼り、箱詰め、検品(検針)などが含まれます。
例えば、輸入食品を国内で販売する際、日本語のラベルを貼る作業は流通加工の一つです。また、ギフトセットの組み立てや、店舗ごとに異なる商品を詰め合わせる作業も、物流の現場で行われる場合もあります。こうした加工を物流拠点で実施することで、メーカーや小売店の負担を減らしスピーディな出荷が実現できます。
最近では、消費者のニーズが多様化して個別対応が求められるケースが増えています。Amazonのように顧客ごとに異なる仕様の商品をできるだけまとめて一つの梱包で出荷できるなどの柔軟な対応力と、それを実現する技術も一つのロジスティクスと言えます。
ロジスティクスを支えるデジタル技術の重要性について
ロジスティクスの効率を最大化するためには、デジタル技術の活用が不可欠です。その中でも重要なのが、倉庫管理システム(WMS)や在庫管理システム、ERPなどのソフトウェアです。
倉庫管理・在庫管理システムにおけるAI・IoTの導入
システムの導入により、Excelなどの手作業でのデータ管理から脱却されつつありますが、近年ではIoT技術を活用して倉庫内の棚やパレットにセンサーを取り付け、自動的に在庫数を把握する仕組みが普及しています。
また、ピッキング指示や倉庫レイアウトの最適化、作業順序や倉庫内の人員配置に至るまで、AI技術が導入されています。ロジスティクスにおいて、AIとIoTを組み合わせることで、倉庫内のオペレーション全体を自動化・最適化する動きが加速しています。
ERPの活用:部門間連携と情報共有
ロジスティクスを成功させるためには、物流部門だけでなく、生産・販売・購買・財務など、企業のさまざまな部門が連携し、情報を共有・閲覧できることが不可欠です。これが上手く機能しないと適正な在庫は維持できません。
そんな中、近年導入されているのが『ERP(Enterprise Resource Planning)』です。
ERPは、企業全体のデータを一元管理してリアルタイムに各部門が必要な情報にアクセスできます。例えば、生産部門が現在の在庫状況を把握しながら適切な生産計画を立てたり、販売部門が物流の動向を確認しながらマーケティング戦略を立てることが可能になります。
特に、グローバルに展開する企業では、各国・各地域の拠点がバラバラに情報を管理していると供給の最適化が難しくなります。ERPを活用することで、国を越えて情報をリアルタイムに共有して、より精度の高いロジスティクスを実現できます。企業が成長して物流の規模が拡大するほど、部門間の連携と情報の一元管理が欠かせない要素となります。
参考:在庫管理や販売管理もお任せ|クラウドERPキャムマックス
BIツールの活用:データ分析・可視化による継続的な改善
ロジスティクスの最適化は、システムを導入して完結するものではなく継続的な改善が求められます。
そのため、データを収集・分析して可視化する『BIツール(Business Intelligence)』の活用が欠かせません。
物流KPI(重要業績評価指標)を用いて、配送リードタイム、在庫回転率、誤出荷率などを定期的にモニタリングし、課題を明確にした上で適切な改善策を講じることが重要です。
BIツールを使うことで、物流の各業務のデータを自動的に集計・可視化をして改善すべきポイントを特定して、改善プランを提案するといったアクションが可能になります。
第4次産業革命と言われる「ロジスティクス4.0」
私たちは「ロジスティクス4.0」の時代に突入しています。最大の特徴は、すべてのモノや情報がリアルタイムでつながりオートメーション化が進むことです。
例えば、倉庫ではWMSはもちろん、AIやIoT技術、ロボティクスといった最先端技術が物流に取り入れられ、かつてないほど高度なロジスティクスが実現されつつある段階です。
また、現在(2025年)も西濃運輸や佐川急便が中心となり、自動運転トラック(T2)による幹線物流輸送の実現に向けた実証実験が行われています。
海外でもドローンを活用した配送や、AIによる最適ルートの自動選定など、新たな技術が次々と導入されており、物流の効率化と省人化が加速しています。これらの革新により、従来の物流課題であった人手不足や配送コストの高騰といった問題も徐々に解決へと向かっています。
ロジスティクスがもたらす効果とメリット
在庫の適正化
需要予測や在庫管理システムを活用することで、最適な量を適切な場所に配置する仕組みをつくることができます。例えば、ECサイトでの購買データを分析して、特定の地域で売れ行きが好調な商品をそのエリアの倉庫に多めに在庫を配置することで、配送スピードを向上させつつ在庫のロスを防ぎます。
コスト削減
AIを活用した配送ルートの分析や最適化を行い、交通渋滞を避けながら最短距離での輸送を実現することで燃料費を削減できます。また物流コスト以外にも、倉庫内のオペレーション業務をシステムで制御することにより省人化されれば、人的コストの削減にもつながります。
無駄な生産・余剰在庫の回避
ロジスティクスが機能することで需要に応じた生産計画が立てやすくなり、無駄な生産や余剰在庫の発生を抑えます。例えば、食品業界では消費期限のある商品を適切に管理して、必要な分だけ生産・供給することで食品ロスを減らすことができます。流通の各段階で在庫の回転率を高めフレッシュな状態で消費者に届ける仕組みを作ることは、顧客満足度の向上だけでなく企業にも利益として還元されます。
営業支援
ロジスティクスは営業担当者の支援にもつながります。ERPシステムにより企業の情報が一元管理されることで、部門間でのやり取りが最小限に抑えられ、顧客からの問い合わせにも迅速かつ的確に対応できます。また、顧客ごとの出荷状況も一目で把握できるため、他部署に確認する手間も減らすことができます。可視化が進むことで、営業担当者はより本質的な業務に集中でき、効率的に業務を進められるようになります。
売上向上のサポート
ロジスティクスは、売上の向上にも貢献します。例えば、ECサイトでは配送スピードが売上を左右する重要な要素となります。注文から発送までの時間が短ければ短いほど、顧客の満足度は高まりリピーターの獲得につながります。これを実現するためには、ロジスティクスの最適化が不可欠で、各地に配送拠点を設け注文データをもとにリアルタイムで最適な出荷ルートを決定することで迅速な配送を可能にします。また、小売業では需要予測を活用して適切な在庫を確保することで、欠品による販売機会の損失を防ぎ、売上の最大化を図ることができます。
外部物流企業 ~3PLとの協業
物流業務を専門とする3PL(サードパーティ・ロジスティクス)の活用により、物流の管理や運営を専門企業に委託できます。
例えば、EC事業者の場合、物流業務を3PLに委託することで、商品の入出庫管理、在庫管理、梱包、配送までを一括して任せることで、本来のコアビジネスに集中できます。
さらに、3PLは最新の物流システムやノウハウを活用して、最適な配送ルートの設計や、需要の変動に柔軟に対応できる在庫管理を提供します。特に、繁忙期やキャンペーン時など急な出荷増加が発生した際にも、3PLのネットワークを活用することでスムーズに対応できるのが大きなメリットです。
また、国際物流を展開する企業にとっても3PLは貴重なパートナーとなります。
関税手続きや輸送ルートの最適化など、海外物流の専門知識を持つ3PLと連携することで、スピーディかつコスト効率の良いグローバルロジスティクスを構築できます。
ロジスティクスを最適化するためには、企業単体で取り組むのではなく、外部の物流企業やパートナーとの協業が重要なポイントとなります。
この記事を書いた人
下川 貴一朗
証券会社、外資・内資系コンサルティングファーム、プライベート・エクイティ・ファンドを経て、2020年10月より取締役CFOとして参画。 マーケティング・営業活動強化のため新たにマーケティング部門を設立し、自ら責任者として精力的に活動している。