棚卸の正しい進め方|精度を上げるための準備・手順・評価方法
棚卸は、企業の在庫状況を正確に把握して財務管理や適正な発注計画を立てるために欠かせない業務です。しかし実際の現場では、以下のような課題が発生しがちです。
- 数え間違いや記入漏れが発生して後から修正作業が必要になる
- 担当者ごとにやり方が異なり、作業が非効率になってしまう
- 帳簿上の在庫と実際の在庫が一致せず、原因の特定に時間がかかる
- 手作業での記録ミスや確認不足により誤った在庫データが反映されてしまう
- 決算時に在庫評価の方法がわからず財務処理が複雑になる
このような問題を解決して正確な棚卸を実施するためには、適切な準備と手順、評価方法の理解が不可欠です。
本記事では、棚卸の基礎知識から実務に役立つ具体的な手順、在庫の評価方法、さらにミスを防ぐための工夫やデジタルツールの活用方法までを詳しく解説します。
棚卸をする意味:基礎知識と解説
棚卸は決算時に実施する必要があり、企業の損益を正しく把握するために欠かせない作業です。特に製造業や小売業、や飲食業など、常に商品や原材料の在庫を抱えている業種では、毎月棚卸を行うケースもあります。定期的に棚卸を実施することで、在庫数のズレを早期に発見できるので、不要なコストや廃棄の削減につながります。
このように棚卸は決算のために行うだけではなく、在庫の管理状況を把握して、帳簿上のデータと実際の在庫が一致しているかを確認する重要な機会でもあります。
商品点数が多いと時間と労力がかかる大変な作業になりますが、企業の経営基盤を支える上で必要不可欠なものです。
棚卸の目的
適切な在庫数の確保
棚卸を行うことで、現在の在庫が適切な量で維持されているか、あるいは売れ残りが多くなっていないかを確認・把握できます。過剰な在庫を抱えてしまうと、倉庫のスペースが圧迫されるだけでなく保管コスト増加の原因にもなります。
在庫の品質管理
棚卸は滞留在庫や不良在庫の発見にもつながります。食品や医薬品のように消費期限や使用期限がある商品では、場合によっては廃棄せざるを得なくなるケースもあります。定期的に棚卸を行い、在庫の品質を維持することで無駄なコストや期限切れの商品を出荷してしまうなどのトラブルを未然に防ぎます。
企業の利益計算と財務管理
棚卸は、適正な利益計算を行うためにも欠かせない作業です。売上原価は「期首在庫+仕入-期末在庫」という式で求められるため、もし期末の在庫数を正しく把握できていなければ売上原価が実態とズレてしまい、企業の利益を正確に算出できません。
棚卸を実施する時期
多くの企業で決算期に合わせて実施されることが一般的です。これは、年度末に作成する財務諸表へ正確な在庫データを反映させるためです。また、小売業や飲食業など商品の動きが激しい業界では、四半期ごとや月に1回の頻度で棚卸を行うこともあります。
棚卸の準備
棚卸をスムーズに進めるためには、事前の準備が欠かせません。何の計画もないまま作業を始めてしまうと、「どこに何があるかわからない」「誰がどの範囲を担当するのか決まっていない」といった混乱が生じて、余計に時間がかかる原因になります。
そこで、事前に在庫整理を行い作業手順を決めて、棚卸をスピーディーかつ正確に進めましょう。
在庫整理
同じ種類の商品でもロットやサイズがバラバラになっていると、数量をチェックする際に混乱する可能性があります。事前に在庫の保管場所を分かりやすく整理するのはもちろん、ラベルが剥がれていないか、破損や汚損がないかを確認しておきましょう。また、破損している商品や販売できない不良品、廃棄予定の在庫、預かり品、預け在庫などの把握も大切です。
棚卸表やチェックシートの作成
棚卸表には、商品名やコード、規格、帳簿上の在庫数、棚卸数(実際にカウントした数)、差異の有無だけでなく、担当者の名前を記入する欄も設けておけば、後で数量のズレが発生した際に、どこで間違いが起こったのかを特定しやすくなります。また、大規模な倉庫や店舗で棚卸を行う際は作業の流れを整理するためにチェックシートを活用しましょう。
棚卸を効率的に行うデジタルツール
近年では在庫管理システムが普及しており、バーコードリーダーと連携した棚卸が可能です。手作業で在庫数を記録すると、どうしても数え間違いや記入ミスが発生しやすくなりますが、バーコードリーダーを使い商品をスキャンすることで、正確なデータを即座にシステムに反映できます。またクラウド型の在庫管理システムであれば、リアルタイムでデータを更新できるだけでなく、複数拠点で同時に作業を進めることも可能です。
クラウドERP『キャムマックス』であれば、棚卸で収集したデータを会計システムに連動できるため、決算時の作業負担も大幅に軽減できます。
棚卸の進め方・手順
棚卸には倉庫や店舗で行う『実地棚卸』と帳簿上の在庫を計算する『帳簿棚卸』があります。最終的にはそれらの数字を突き合わせた上で修正を行います。
実地棚卸
実地棚卸の作業では、手分けをして商品を一つずつ数え、事前に用意した棚卸表に記録していきます。人数が多い場合はロケーションごとに小さなチームを組み、エリアを分散しながら進めます。
また『実地棚卸』には、以下の2つの方式があります。
リスト方式
帳簿棚卸によって作成した「在庫リスト」をもとに、倉庫や売り場の商品を数え、リストに記入していく方式です。すでにデータ化された一覧を確認しながら作業を進めるため、実際の在庫と帳簿上のデータをその場で照らし合わせることで、在庫のズレをすぐに発見できます。
・メリット
リストに従って数量を確認できるため作業効率が向上します。また、同じ商品でも形状やサイズが異なるものが混在している場合は、リストが適切に作成されていれば混乱を最小限に抑えて正確に数量を記録できます。
・デメリット
リストに記録されていない在庫を見落としてしまう可能性があります。
タグ方式
段ボールなどでひとまとめに管理された商品や、棚ごとにタグ(棚札)を取り付けて数を記載する方式です。すべての在庫にタグがついた時点でカウントを完了する仕組みなので、ダブルカウントや数え忘れを防げます。カウントが終わった後にタグを回収して集計します。
・メリット
在庫に直接マーキングできるため、数えたものと数えていないものが一目で分かります。またリスト方式と異なり、帳簿に登録されていない在庫も自然とチェックできるため、未記録の商品を把握するのにも役立ちます。
・デメリット
大量の商品を扱う場合には作業の負担が増えてしまう可能性があります。また、手書きでタグを記入すると誤記入のリスクが生じやすい点にも注意が必要です。
帳簿棚卸との突合:棚卸差異を把握する
帳簿上の在庫数と実際の在庫数が一致しないケースは珍しくありません。棚卸を正確に行うためには、実地棚卸と帳簿棚卸を突き合わせて在庫数の差異を把握して、その原因や棚卸差異を明らかにすることが大切です。
仕入や出荷の記録ミス、返品処理の未反映、伝票や納品書の遅延、盗難や破損などが考えられます。こうした差異を放置すると、財務データの正確性が損なわれるだけでなく、在庫管理のミスが積み重なり事業に悪影響を及ぼす可能性があります。
最終的に在庫が合わない場合は、実際の在庫数に基づいて帳簿を修正して最終的な在庫数量を確定させます。
棚卸した在庫の評価方法
棚卸をした後に必要になるのが棚卸資産の決定です。特に決算を控えている企業にとっては、棚卸資産の評価方法によって利益や税金にも影響が出るため正しい理解が必要です。
在庫の評価方法には、大きく分けて「原価法」と「低価法」の2種類があり、それぞれの方法によって算出される金額が変わります。
そのため、自社に合った方法を選ぶことが大切です。選択した評価方法については、税務上のルールに従い”事前に税務署へ届出を行う必要”があります。また原則として選択した方法で3年以上の継続が求められます。
※棚卸資産の評価方法の届出を提出しない場合は「最終仕入原価法」が自動的に適用されます。
原価法
実際に仕入や生産にかかった原価を基準にして評価を行う方法です。同じ商品であっても、仕入の時期によって価格が異なるケースもあるため、どの仕入価格を基準にするかによって在庫の評価額が変わります。
原価法にはいくつかの計算方法があり、以下で詳しく解説します。
最終仕入原価法
最終仕入原価法は、最後に仕入れた商品の単価を基準にして在庫を評価する方法です。計算がシンプルで分かりやすいというメリットがありますが、仕入価格が変動する場合は実際の原価とかけ離れてしまうことがあります。
個別法
個別法は、在庫別に仕入単価やロットを関連づけ、それぞれ実際の仕入価格を評価に使用する方法です。特に高額な商品や、同商品でも仕入時期によって原価が異なる商品を扱う業種では個別法が適しています。ただし、すべての在庫の仕入価格を個別に記録して追跡する必要があるため、大量の商品を扱う企業にはあまり向いていません。
先入先出法
先入先出法は、先に仕入れたものから出庫されると仮定して在庫を評価する方法です。価格変動がある場合、期末在庫の評価単価が新しい仕入価格に近づきやすく、商品原価の動きを財務諸表に反映しやすいという特徴があります。例えば、スーパーなどの食品業界では新しく仕入れた商品ほど在庫として残り、古い商品から先に販売される事からこの方法が適しています。
総平均法
総平均法は、期首在庫と期中に仕入れた商品の合計額を合計数量で割り平均単価を算出して、その単価から在庫評価を行う方法です。期中の仕入金額の合計を仕入数量で割ることで、価格の変動幅を平準化しながら在庫の価値を算出できます。特に、価格の変動が激しい商品を扱う企業にとっては平均化によって安定した評価額を得られるというメリットとなります。ただし、実際の取引価格とは異なる評価額になる場合があります。
移動平均法
移動平均法は、仕入ごとに平均単価を更新して、その単価で在庫を評価する方法です。仕入価格が変動する場合でもリアルタイムに反映できるため、より正確な在庫評価が可能となります。ただし、その都度計算を行う必要があるため管理が複雑になるという側面があります。そのため、リアルタイムに単価を管理できるシステム環境が整っていることが推奨されます。
売価還元法
売価還元法は、販売価格から逆算して原価を求める方式で、販売価格に原価率をかけて在庫の評価を行います。小売業などで商品点数が多く、それぞれの仕入原価を細かく把握しにくい場合に適用されやすい方法です。ただし、適用する原価率によって評価額が変わるため、実際の仕入価格と差が生じる可能性があります。
低価法
低価法は、期末時点の市場価格と帳簿上の原価を比較して低い方の金額を在庫評価額として採用する方法です。例えば、仕入時の原価1,000円の商品が期末時点で800円に値下がりしていた場合、低価法では800円で在庫評価を行います。この方法を用いることで、在庫の価値が下がった際に財務諸表をより実態に近づけることができます。
ただし、低価法を適用すると期末在庫の評価額が下がるため利益も減少することになります。
企業の利益
利益 = 売上高 - 売上原価
売上原価
売上原価 = 期首在庫 + 仕入 - 期末在庫
棚卸をスムーズに進めるためのポイントと注意点
棚卸は「時間がかかる」「ミスが多い」「やり直しが発生しやすい」といった悩みがつきものです。確かに何の準備もせずに始めると、作業が思うように進まず二度手間になってしまうことも多々あります。
ここでは、棚卸をスムーズに進めるためのポイントや注意点について、具体的に解説します。
ミスを防ぐダブルチェックの重要性
棚卸はどうしてもアナログな作業が多くなるため、ミスや記入漏れが発生してしまいます。こうしたミスを未然に防ぐために、ダブルチェックの仕組みを取り入れましょう。
・二人一組で作業を行い、一人が数えた在庫数をもう一人が確認する
・在庫をカウントした後に別の担当者が帳簿データと照合する
特に、数量が多い商品や高額な商品については慎重な確認が求められるため、「これくらい大丈夫だろう」と安易に進めてしまうのではなく、ダブルチェックを徹底しましょう。
クラウド会計・在庫管理システム・ERPシステムなどの導入
棚卸を効率よく行うためには、デジタルツールの活用も有効な手段のひとつです。クラウド型の在庫管理システムや会計システムを活用することで、作業効率を大幅に向上できます。
例えば、バーコードやQRコードから商品をスピーディーにスキャンすることで自動的に数量が計上され、ほぼリアルタイムで在庫数と帳簿の数字を照合する事も可能です。
ヒューマンエラーの削減はもちろん、正確なデータが得られると同時に棚卸業務の負担を軽減できます。
また、在庫管理と会計システムと別々で利用するとデータの管理が煩雑になってしまうことも懸念されるので、その場合はERPシステムを活用しましょう。
ERPシステムですと、在庫管理や財務会計以外にも販売管理や購買管理など様々なデータを一括で管理することができるので、CSVデータで連携する手間やシステムごとに同じ内容を入力するなどの負荷も軽減されます。
棚卸表は7年間保存
棚卸を終えた後の帳票は決算や税務申告に関わる重要な書類となり、税法上も一定期間の保管が義務付けられています。税法では少なくとも7年間保存することが求められています。
保存方法としては、紙の書類だけでなくデジタルデータとしても保管しておくと安心です。どこに何年分のデータがあるのかを明確にして、必要なときにすぐに取り出せるように整理しておきましょう。
クラウドERP『キャムマックス』で棚卸業務を効率化
クラウドERP『キャムマックス』では、在庫数の把握から差異分析、帳簿への反映といった一連の作業をスムーズに行えます。
バーコードリーダーを活用することで迅速かつ正確性の高い実地棚卸が可能で、棚卸の結果をすぐに帳簿と照合して差異を調整できます。
キャムマックスを使った棚卸の流れ
棚卸データの作成
棚卸開始時点での在庫を「棚卸データ」として登録して、後から実地棚卸の結果と比較することが可能です。データ作成時にゼロ在庫の商品を含めるか、あるいは受払が発生した商品のみを対象にするなどの細かいオプションが選べます。
棚卸記入票の印刷
棚卸データをもとに「棚卸記入票」を印刷して使用します。実地棚卸では在庫数のチェックを行い、プリントアウトした棚卸記入票に棚卸数を記入していきます。また、WMSモバイルオプション機能をご利用いただく事で、商品のバーコードを直接読み込んで棚卸数をカウントすることも可能です。
差異分析と棚卸承認
実地棚卸により確認した在庫数をキャムマックスに入力します。差異が見つかった場合は原因を詳しく調べ、(棚卸数の再確認や、受払増減数の確認など)その上で、調査結果を反映して棚卸承認を受けると棚卸数量が確定します。
キャムマックスによる棚卸についての詳しい説明は、以下ページをご確認ください。
https://support.cammacs.jp/camsta/2022-12-22/
この記事を書いた人
下川 貴一朗
証券会社、外資・内資系コンサルティングファーム、プライベート・エクイティ・ファンドを経て、2020年10月より取締役CFOとして参画。 マーケティング・営業活動強化のため新たにマーケティング部門を設立し、自ら責任者として精力的に活動している。